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グローバルスタンダードとしての国際人権法

国際人権法学会理事長・申 惠丰(しん へぼん)

理事長 申 惠丰

国際的にも人権保障に取り組もうとする国際人権法の誕生は、第二次世界大戦を経て、国連を創設する国連憲章の中で、人種や性、宗教、言語による差別なく「すべての人」の人権尊重が謳われたことを嚆矢としています。

18世紀以降、憲法で人権保障を定める近代立憲主義が発展する一方、国家間関係を規律する法としての国際法上は、20世紀に至るまで人権は基本的に各国の国内問題とされてきました。しかし、国家の危機を煽って憲法上の人権を次々と停止し、司法をも支配して人権蹂躙を侵したナチスのように、国内法による人権保障は、時の政権によっていとも簡単に踏みにじられることがあります。人権保障の国際化は、人類が痛切な犠牲を払って得た歴史の教訓のたまものでした。そして、人種差別をはじめとするいかなる差別もあってはならないことは、国際人権法を貫く大原則として当初から組み込まれています。人種・民族差別に基づく優劣の思想によって、自らの支配を拡大するために、近隣国を侵略し、その過程では反対意見を暴力的に弾圧し封殺していく。第二次大戦でみられた構図はヨーロッパでもアジアでも共通でした。それは、注意を払っていかなければ、世界のあちこちで再び繰り返されうることでもあるのです。

1948年に国連が採択した世界人権宣言は、すべての人民と国が達成すべき共通の基準を掲げたもので、現在ではビジネスと人権という文脈でも援用される基本的な国際人権基準です。その後植民地の独立などによって国連の加盟国は大きく増え、1993年の世界人権会議で採択されたウィーン人権宣言では、人権の普遍性があらためて確認されています。

国連では、中核的人権条約と呼ばれる人権条約が多数採択され、国際人権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約など、日本もその多くを批准しています。これらの条約では、締約国が条約実施状況を条約機関(委員会)に報告する制度があり、これにより、各国の人権状況が、国連ヨーロッパ本部のあるジュネーブで審議されていることは、画期的なことといえます。難民条約のように、中核的人権条約には含まれないものの、内容的に人権と深い関連をもち、日本の国内法にも大きな影響を与えた条約もあります。さらに、地域的には、ヨーロッパ人権条約や米州人権条約のように人権裁判所を設けているものがあり、これら裁判所の判例法は、地域を超えて他の人権条約機関の判断に影響を与えています。また、人権条約の制度とは別に、国連では、人権理事会を中心に行われている活動があり、全加盟国を対象とした「普遍的定期審査(UPR)」という報告審査のほか、様々な人権問題についての討議が例年行われています。

このように、国際人権法は、国内法による人権保障を、国際的な人権基準の観点からチェックし、問題のある部分については改善を促す機能を果たしています。日本の婚外子差別や外国人差別のように、人権問題の当事者が国内的には圧倒的に少数であったり、選挙権をもたない人々であったりするために、その声が国内の政治的・法的プロセスの上で正当に反映されないことはしばしばありますが、そのような場合にはなおさら、国際人権法が、あるべき人権保障の基準を指し示す重要な法規範として用いられることになります。今日の国際社会において国際人権法は、普遍的な価値を体現した法規範、いってみれば普遍的価値の「ものさし」としての地位を占めているといえるでしょう。

国際人権法の体系が豊かに発展してきた一方、現実の国際社会における人権保障は様々な課題を抱えており、近年ますます深刻化している問題もあります。「テロとの戦い」という言説の下に個人のプライバシーや宗教の自由が侵食される状況はその一つですし、テロリスト壊滅のためとして行われる空爆は、罪のない人々の生命を奪う危険をはらんでいます。テロ対策として各国の政策が軍事に傾斜していけば、子どもの教育や健康のために充てることができるはずの予算や資源は一層切り詰められていきます。こうした軍事化の傾向は、現在、国際人権保障が直面している最大の課題の一つといえますが、この傾向はまさに、原発事故の被災者の人権も顧みずに米国との軍事協力をひたすら拡張させ続ける日本の政策とも重なるものです。このような方向性の行き着く先には何があるのか、私たちは冷静に考えなければなりません(そもそも、テロに走る過激派を生んだ背景には、米英が行い日本も全面的に支持した2003年のイラク攻撃とその後の混乱、中東全体の不安定化があります)。軍事化路線は、憲法に基づく人権の保障をそれ自体掘り崩すものであることも多言を要しません。その意味でも、人権の問題は今日、国内的・国際的視野を常に併せ持ったかたちで考えられなければならないでしょう。

国際人権法学会は、国際法、憲法、刑事法、行政法、ジェンダー法、民法、国際関係論など、国際人権法に関心をもつ各法分野の研究者が集う学際的な学術団体です。さらに、本学会には、日々人権問題の当事者に最も寄り添った立場で活動され、その中で国際人権法を活かそうと尽力されている弁護士の方々を中心とする実務家や、人権NGOで活動されている方々も、多数加わっておられます。毎年11月の年次研究大会での研究報告や、互いの問題関心をぶつけながら行われる意見交換(年によってシンポジウム)は、様々な立場で人権の問題に取り組んでいる方々が活発に関与する、知的刺激に満ちた時間です。学会誌『国際人権』では、研究報告を基にした論稿のほか、国際人権法に関連する判例研究や書評、公募論文などを掲載しています。

今後、本学会では、国際人権法の研究・実践に関する中心的な学術フォーラムとしての存在意義を一層明確に発揮するべく、年次研究大会と合わせ、又はその他のかたちで、例えば研究者と実務家との勉強会や、ゲストをお招きしてのサイドイベントなど、これまで以上に充実した学会活動を展開していきたいと考えております。国外の研究者や学会との国際交流も積極的に進めていく所存です。学会を支えて下さっている会員の皆様におかれましては、何卒、学会活動について忌憚のないご意見をお寄せいただけますようお願いいたします。また、様々な分野で人権の研究や人権活動に取り組んでおられ、国際人権法に関心をお持ちになる方々には、ぜひ研究大会を傍聴いただくとともに、会員として本学会のネットワークにご参加いただければ深甚に存じます。


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